子どもを叱れない先生というのは、若い先生、特に教員になりたての先生に多く見られます。その中でも女性の先生の方が叱れない割合が高いように個人的に思います。
話が少しそれますが、教育実習生を受け持つと、叱り方についての質問をよく受けます。
「どうやって叱ったらよいかわからない」という質問や、「今は子どもを叱らない方がいいんですか?」という質問もありました。
教育実習生はあくまでも実習生ですので、緊急時以外は担任に任せる方がよいです。
しかし、新任といえど教員になったからには、叱る必要があるときは叱らなければなりません。
ということで、この記事では、子どもを叱ることについてまとめていきます。
タイトルは、「子どもを叱れない先生は、子どもから人気はありません!」です。ポイントは、「叱らない」ではなく、「叱れない」です。
あえて叱らないのではなく、叱りたくても叱れない先生のことです。
では、まず「叱る」と「怒る」の違いについてまとめます。春日市教育支援センターの「子育てのワンポイント」の第25号に記載されていることを紹介します。
「叱る」=相手に成長・改善の気づき・機会を与える
「怒る」=相手に自分の感情をぶつける
https://www.city.kasuga.fukuoka.jp/res/projects/default_project/_page/001/001/731/onepoint_25.pdf
ここで扱うのは、「叱る」ことであって、「怒る」ことではないよ。
子どもの成長のために必要な「叱る」ということについて、考えていきましょう。
教師が「叱ること」について、子どもたちはどう見ているのか
教師が叱ることについて、子どもたちはどう思っているか、下の資料を見てください。この資料は、「学校の先生」には、次のことがどれくらい必要だと思いますかという中学3年生に対する調査結果です。
中学3年の実に90%以上の生徒が、教師に必要なこととして「悪いことをした生徒を厳しくしかる」ことをとても必要・まあ必要と回答しています。
私が教員として働いてきて感じたこと、それは叱らなければいけないときは、きちんと叱る必要があるということです。
子どもたちは、学校という場所で集団生活をしています。学校にはさまざまなルールがあり、集団であるからこそ、個人としてわがままばかり言ってはいられないことを学びます。
そういう中で生活するのですから、ルールを守らない子がいたら「叱ってほしい」と思う子はいます。
教員経験がある程度ある先生なら、こう言われたことはありませんか?
「先生、○○さんはあんなことをしています。(叱ってほしいです。)」
( )の言葉は心の声です。直接言う子もいますが、こうした不満を訴えてくる子は、叱ってほしいと思っている子です。つまり、学級の輪を乱してほしくないのです。
こうした状況を見逃していく、つまり叱るべき時に叱らないと、学級は荒れていきます。
「叱れない先生」は、どうして叱れないのか
叱れない先生と一言で言っても、いろんな理由があると思います。主な理由を挙げてみます。
- 叱り方がわからなくて、叱ることに躊躇してしまう
- 叱ることで、子どもとの関係が悪化するのではと心配している
- 子どもは褒めて育てるのが大切だから、叱ってはいけないと思っている
それでは、主な3つの理由について、それぞれ見ていきたいと思います。
叱り方がわからなくて、叱ることに躊躇してしまう
このタイプの先生は、叱ることの必要性は感じているのですが、叱り方がわからないために子どもたちに適切なタイミングで叱ることができません。
叱ることを躊躇している間に、問題が悪化してしまったという経験をしている可能性があります。そのため、さらに叱ることにためらいが出て、なかなか叱ることができないという悪循環に陥っているかもしれません。
さて、躊躇して叱れない先生はどのような環境にいるのでしょうか。一概に、叱れない先生というひとくくりではまとめられないと思います。
なぜなら、叱るという行為は相手に対してすることなので、子どもよっては叱り方が難しく、どうしてよいかわからないことがあるからです。
世の中にはいろんな学級や子どもたちがいます。
例えば、前年度に学級崩壊しており、教員の注意を聞かない雰囲気の子どもたちかもしれません。また、学級内に周りと同じように叱るとキレる子がいるかもしれません。
変な叱り方をすることで、さらに状況を悪化させるのでは?という不安をもつ先生がいるかもしれません。
しかし、私の経験から言うと、叱らなければいけないときは、何もしないより叱った方がよいです。なぜなら、叱るべき時に叱らないのは、教師が子どもの行動を容認したことと同じだからです。
目の前で、誰かがいじめられている現場を発見しました。教師が叱らないのを見た子どもたちはどう感じると思いますか?
叱り方がわからないから、躊躇して叱れないという先生は、絶対に上手に叱れるようになります。何事も経験ですから、教えてもらったり、自分で体験したりして、叱り方のコツを身に付けていけます。
叱ることで、子どもとの関係が悪化するのではと心配している
子どもを叱ったら、自分との関係が悪化して、今後うまくやっていけないのではないかと心配する先生がいます。
もちろん、叱ったことで子どもとの関係がギクシャクすることはあります。でもそれは、叱り方だったり、子どもの精神発達(思春期など)も関係するので、ある程度は仕方ないことだと私は思います。
特に、中学生は難しい子がいるのも事実。
でも、考えてみてください。叱らなければならない状況の時、叱ることと子どもとの関係のどちらが大切ですか?
例えば、子どもがだれを傷つけるようなことを言っていた時、どうしたらよいですか?関係を悪化させないように、叱らない方がよいと思いますか?
もし、子どもの成長を考えるなら、ダメなことはダメだと叱る必要がありますよね。
「褒めて育てる」の勘違い
若手の先生の中には、「褒めて育てる」を誤解している人がいます。
もちろん、褒めることはとても大切です。褒めることは、子どもが自己肯定感を高めることにつながります。
ただ、褒めて育てる≠叱らない だと考えましょう。
叱らなければいけないことは、きちんと子どもを叱り、大切なことを伝える必要があります。
褒めることはとても大切ですが、褒めるだけではいけません。たくさん褒めて、必要な時はきちんと叱るメリハリのある指導が大切です。
普段から褒め言葉をたくさんかけている先生は、叱る言葉も子どもたちは素直に聞いてくれます。
叱り方のポイント
それでは、ここから叱り方のポイントをまとめていきます。私の経験も交えながらまとめていきます。
教師が感情的になってはいけない
教師が感情的になってはいけません。それでは、ただ「怒る」ことと何ら変わりません。
え?でもベテランの先生で、声を荒げて怒っているのを見たことがあるよという先生がいるかもしれません。その先生は、本気で怒っているのでしょうか?
実は、指導が上手な先生は、教師が本気で怒っていることや悲しんでいることを演技しています。感情的に怒っているように見えますが、冷静に言葉を選んで叱っているはずです。
教師が本気で心配して叱っているということをわからせるための、ベテランの先生ならではのテクニックです。ですから、指導が上手な先生が叱る場面に立ち会えたら、しっかりそのテクニックを学びましょう。
中には、ベテランでもヒステリックに怒るだけのどうしようもない先生もいます。さすがに見分けられますよね?
基本的には、諭すように落ち着いた口調で話をしましょう。頭ごなしに叱ると、心を閉ざす子もいます。
子どもを否定するのではなく、行為を否定する
これは生徒指導の基本ですが、否定するのは行為を否定します。例えば、悪口を言ったときの指導について、
と言うと、子どもを否定することになります。ですから、子どもではなく、行為を叱ります。
まあ、文面で見るとどちらもちょっと厳しい言い方じゃないの?と思うかもしれません。でも、その後に続く指導の言葉が違ってくることに気付きましたか?(だから)の後に入る指導の言葉を考えてみてください。
行為について叱った場合、その行為に対する指導の言葉が自然と出てきませんか?
でも、子どもを否定する叱り方をした場合、どんな言葉が浮かびましたか?
もっとひどいことを言ってしまいそうではないですか?
誰でも子どもは失敗します。叱る内容が、いじめに関わることなど重大な問題であれば、人格的を否定するようなキツイ言い方をしてしまうかもしれません。
でも、叱るべきことはやってはいけない行為であって、本人ではありません。教師として、正しい人権感覚をもちましょう。
人格を否定するような指導をしていると、保護者からの苦情につながります。
ダラダラ説教しない
叱るときは、ダラダラ説教しないようにしましょう。何が伝えたいのか自分自身がわからなくなりますし、子どもにも大切なことが伝わりにくくなります。
短くビシッと叱り、後は無駄な話で引き延ばさないようにしましょう。
叱るのが苦手教師ほど、時間をかけて叱ればよいと思っているところがあり、ネチネチクドクドと指導をします。
しかし、賢明な先生方ならご存知の通り、話が長い教師は子どもたちの心に響かないばかりか、単に嫌われるだけです。
一方的に叱らず、子どもの思いもしっかり聞く
叱る内容にもよりますが、教師が一方的に叱って終わりにならないようにしましょう。子どもは子どもなりに思っていることがあります。
例えば、ケンカによるトラブルの場合、ダメなことは叱りつつも、本人の思いは聞いてあげることが大切です。
自分の思いをきちんと教師に聞いてもらえれば、子どもは叱られたことを受け入れやすくなります。直さなければいけないことは毅然とした態度で叱りますが、ケンカに至った本人の気持ちにも理解を示してあげることで、「先生は自分のことを思って叱ってくれているんだ」と納得しやすいです。
逆に、一方的に叱るだけだと、子どもは叱られた事実しか残りません。そのため、家に帰ってから「先生に叱られた」と親に言い、「私の話も聞かず、一方的に叱られた」ということも話します。
さあ、保護者から苦情が来てもおかしくないですよね。
子どものことを思って叱ることができる教師であれば、きちんと子どもの思いも聞いてあげましょう。ただし、先ほども述べた通り、いけないことには毅然とした態度で指導してください。
何か言いたいことがあったり、納得できていなかったりする場合、子どもの表情を見れば何となくわかると思います。もし、わからなければ、最後に「何かまだ言いたいことはある?」と聞きましょう。
叱った後は、きちんとフォローをする
叱った後は、きちんとフォローをしましょう。
叱ったのはやってはいけない行為であることは、すでに述べました。ですから、叱った後にもうしなくなったのであれば、もう叱ったことは過去のこととして水に流してあげましょう。
私は、本当に叱った事実を忘れてしまうことがありますが…。
そして、叱った後はフォローを忘れないように。
叱るだけでなく、良いことをしたらきちんと褒めてくれる先生なんだ、と子どもに思わせることが大切です。
叱ったあとに、フォローをするなんて気分になれない先生。先生は大人ですが、大人になりましょうよ。
最後に
若手の先生の中には、叱ることが苦手だという先生が結構たくさんいます。(私が出会ってきた若手の先生の話)
若手の先生に、「ベテランの☆☆先生、あまり叱ったところを見たことがないんですが、クラスが落ち着いていてすごいですね」と言われたことがあります。
私はその若手の先生に、「☆☆先生は、叱らなくてもいいような学級経営をしているんだよ。つまり、子どもたちが叱られることをしない、雰囲気のよい学級を作っているんだよ」ということを話しました。
叱れない先生のクラスは荒れてきます。上手に叱れる先生であれば、学級の雰囲気は落ち着きます。さらにその上、力量のある先生は、叱ることが少なくなるような学級経営をします。
当然、叱ることが少ないので、学級の雰囲気が悪くなることが少なく、子どもたちも満足しています。
若手の先生には、いつかそんな素晴らしい学級経営ができることを目指して、がんばってほしいと思っています。