いじめ問題は社会問題として取り上げられていますが、なくなる気配がありません。
次のグラフは、文部科学省から出された「令和元年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果の概要」から抜粋したものです。学年別のいじめの認知件数を表しています
この資料からわかることは、小学校でのいじめの認知件数がとても多いということです。
もちろん、先生方ならご存知のように、年齢が低いほどちょっとしたことでも「イジメられた」と訴えるでしょう。逆に年齢が上がれば、本人が訴えない、または表面化していないものもあると思われます。
とにかく、いじめができるだけ起きないようにするのは、教師にとって大切な役割です。
私は、教員として20年程現場で働いてきました。そして、先輩の先生方に教えていただいたこと、自分が経験したことから大切だと感じたこと。
それは、
いじめが起きない学級づくりをすることに全力を注ぐ
ということです。
いじめが起きてからの対応についてはよく言われますが、そもそもいじめが起きなければ、対応する必要もありません。
いじめが起きたら、たとえ小さなことだとしても、ものすごくエネルギーを使います。
そうならないよう、今回は、「いじめ予防に大切な5つのポイント」についてご紹介していきます。
実際に私が取り組んでいたことです。参考にしてください。
学級開きでいじめを許さないことを宣言する
「黄金の三日間」という言葉を聞いたことがありますか?
4月の初めから3日間は、子どもたちが緊張していてしっかり話を聞くことから、この3日間の間にしっかりと学級経営の基盤を作っておきましょうということです。
私は、学級開きの時、自己紹介の最後に必ず「いじめを許さない」ことを話していました。
最初は子どもたちの緊張をほぐすように、笑いをとりながら自己紹介をします。
しかし、急に真剣な表情になって、いじめを許さないことを話します。
笑いから真剣な表情へのギャップがあることで、子どもたちは真剣に話を聞いてくれます。
子どもたちに、「この先生は、いじめをしたらものすごく怒りそう…」と印象付けられればOKです。
新任の先生であっても遠慮はいりません。「先生はいじめが嫌いだ!」と最初に子どもたちに刷り込むことが大切です。
いじめにつながりそうなことを見逃さない
学級開きで、「いじめは許さない」と宣言しているのですから、いじめにつながりそうなことを見かけたら、絶対に見逃してはいけません。
ダメなことを見逃す教師は、学級崩壊を招きます!
私の場合、4月当初に小さなことを見つければ、「しめた!」と思ったものです。
こんなことがありました。
国語の授業で、書いた作文を隣の子と発表し合う活動を行うときのことです。どちらが先に発表するかはじゃんけんで決めていいよと伝えました。
すると、A男は、「最初はグー」と言うところ、「最初っから!」と言ってパーを出しました。隣のB男はびっくりして、そして悲しそうな顔をしていました。
A男はちょっとした悪ふざけのつもりだったのかもしれません。しかし、B男の顔を見て明らかに嫌な気持ちになったことがわかりました。
私はここで授業を止め、A男のしたことについて注意をしました。本人は注意されてびっくりしていましたが、B男本人から「嫌な気持ちになった」と聞いて反省していました。
いじめは最初からものすごくひどいことが行われるわけではありません。ちょっとしたことから始まり、だんだんエスカレートしていくのです。
ここでは、「相手の表情を見れば、自分がしたことがわかる」と話をしました。自分が悪ふざけのつもりでも、相手が嫌がれば、それはいじめにつながるかもしれないと説明しました。
さて、なぜこうしたことが4月に起きて「しめた!」と思ったのか。
それは、担任の「いじめを許さない」という思いを、実際に示すことができたからです。
日頃から、何をしてはいけないのかということを示していけば、子どもたちはきちんと理解するようになります。
誰もが学級内で活躍できる場を作る
いじめが起こらない学級にするには、子どもたち一人一人に居場所があることが大切です。
居場所があるとは、一人一人が周りから認められていることです。
そのためには、一人一人が活躍できる場を作ることが大切です。
勉強が得意な子、運動が得意な子など、得意なことがある子は、普段から周りの友達に認められることが多くあります。
そういう子たちばかりでなく、誰もが教室内で活躍できる場を作ってあげることが、担任としての大切な仕事です。
- 絵が得意な子に、背面黒板のイラストを描いてもらう。
- 昆虫に詳しい子を「昆虫博士」として認めてあげる。
- 自主勉強のノートを毎日提出する子をみんなの前で褒めてあげる。
どんなことでも本人の良さを認め、それをクラスの子どもたちに知ってもらうのです。
一人一人を認めてあげることで自尊感情が高まり、クラスの一員として自分だけでなく、周りの友達も大切にできる学級になると考えています。
日頃から思いやりのある行動を褒める
日頃から思いやりのある行動を褒めることも大切です。
低学年ほど、細かいことでもきちんと褒めてあげることで、周りの子がまねをするようになります。結果、それが友達への思いやりの行動につながっていきます。
低学年だと、「自分も褒められたいから!」という思いでよい行いをまねしますが、それをきちんと褒め続けることで、正しい行為として身についていくと思います。
私の場合、以下のような小さなことでも褒めてきました。
- プリントを回すときに「どうぞ」と言えた。
- 机から落ちたものを拾ってあげた。
- 失敗したことをすぐに「ごめんね」と言えた。
- 泣いている友達に声をかけていた。
- 何かをしてもらった時に「ありがとう」と言えた。
- 給食をこぼした子の手伝いが進んでできた。
学級の雰囲気というものは不思議なもので、叱ってばかりいると、緊張感のある固いクラスになります。
褒めることが多いと、笑いのあるあたたかいクラスになります。
思いやりのある行動を褒めることで、あたたかいクラスになり、それがいじめが起きないクラスにつながっていくと思います。
気になる子は普段から気を付けて様子を見る
学級全体へのはたらきかけをしても、それだけで十分とは言えません。
やはり、気になる子は普段から気を付けて様子を見る必要があります。
学級全体の雰囲気がよければ、気になる子を中心に見ていればよくなりますよ。
もしかしたら、いじめるかもしれない子がクラスにいるかもしれません。前年度の引き継ぎからわかると思います。
気を付けなければならいないのは、衝動的に友達を傷つけてしまう子です。
- すぐに手が出る。
- すぐに人を傷つける言葉を言う。
- 人に嫌がらせをして気を引こうとする。
など、こういうことをする子は、年度当初は特に気を付けて見ているようにしましょう。
もし、衝動的な行動が発達障害と関係するならば、長期的に対応する覚悟をもつ必要があります。
やっていけないことはきちんと指導しつつ、褒めてあげられるときはきちんと褒めることが大切です。
学級全体を指導しつつ、個への対応も欠かさないことが、いじめが起きない学級づくりには必要なことです。
まとめ
いじめ予防の大切なポイントとして、以下の5つについて紹介してきました。
- 学級開きでいじめを許さないことを宣言する
- いじめにつながりそうなことを見逃さない
- 誰もが学級内で活躍できる場を作る
- 日頃から思いやりのある行動を褒める
- 気になる子は普段から気を付けて様子を見る
いじめは起きてから対応するものではなく、そもそも起きない方がよいのです。当たり前のことですが。
そのために、いじめが起きないよう、予防することにまずは全力を注ぎましょう。
それでも、いじめが絶対に起きないという保証はありません。いじめが起きる可能性はあります。
ただ、いじめが起きないよう教師が全力で取り組んでいることは、子どもたちの心に確実に届きます。教師の願いを知った子どもたちがたくさんいれば、大きないじめに発展していかないと私は思います。