小学校の卒業式の袴については、いろいろとニュースになっているので、全国的な問題なのでしょう。卒業式の袴の着用について、問題となる学校もあればそうでない学校もあります。
今回は、教員の視点から卒業式の袴について、意見を述べたいと思います。結論はタイトルの通りですが、きちんと理由を交えながらまとめていきます。
なお、袴をなくすべきだ!と言っていますが、だからといってドレスなら良いというわけではありません。また、袴そのものを否定するわけでもありません。
私自身、袴は美しく、晴れ舞台にとても似合うと思っています。ただ、公立の小学校で行われる卒業式を考えた場合、袴の着用をなくすべきだと思っています。
袴の着用を認めるかどうかは、基本的に保護者の判断です。それでも、一人の教員として自分の考えはもっておきたいものです。
袴の着用は増えているの?
教員生活20年弱を振り返ると、やはり袴の着用は増えてきていると感じます。しかし、学校によって、また地域によってかなり差があるのが実情です。
まず、公立の小学校でも、制服が指定されている学校は、そのまま制服で卒業式を行う場合が多いので、袴の問題は存在しません。
私が働いていた地域で考えると、小規模校の方が、袴の着料率が高くなる傾向にあるようです。これは、保護者ネットワークが狭いために、「あの子が着るならうちも着せなければ」「みんな袴を着せるなら周りに合わせないと、うちの子だけ浮いてしまう」といった状況になりやすいからだと思います。
小規模の学校に関わらず、袴に関しては子ども同士、そしてママ友同士のネットワークで広がっているようです。実際に子どもたちに話を聞いた時も、母親同士で袴のレンタルについて、情報を交換していると聞きました。
最近は、男子の袴着用も増えています。男子についても、ママ友ネットワークが大きく影響しているようで、本人の希望というよりは、母親の勧めのようにも感じます。
袴に反対する理由
着たくても着られない子への配慮から
私が反対する一番の理由はこれです。公立の小学校には様々な家庭の子が通っています。
経済的に苦しい家庭の子にとって、安くても1万円を超える袴のレンタルを親に頼めるでしょうか。子ども同士で卒業式の服装の話題になった時、その子は肩身の狭い思いをするかもしれません。
生活が苦しい家庭の子だけでなく、理由があって、実の親と一緒に生活していない子もいます。施設で生活している子もいます。
教員として、様々な子に出会ってきた私の感覚では、どうしても袴を推奨する気持ちにはなれないのです。だから、私の主張は私の主観でしかありません。
しかし、実際に、学級で袴を着たくても着られない状況にある子を受け持ったことがある先生なら、私が言うことをわかってもらえると思います。
もちろん、洋装のレンタルでもそれなりに金額はかかります。最近は、袴のレンタル料も洋装のレンタル料と同じくらいのものもあります。
しかし、洋装は知人から借りたり、職員室の先生の中で用意できる先生がいたりと、和装と比べ比較的用意がしやすいです。複雑な家庭環境のこの場合、何とか周りが用意をしてあげるという状況もあるでしょう。
卒業式は小学校生活の終わりと同時に、中学校生活への旅立ちでもあります。そんな大切な行事なのに、服装のことで悩む子がいるのはかわいそうなのです。
保護者への負担を考えて
いろんな考え方の保護者がいます。袴を積極的に着せたいと思う保護者もいれば、別に袴にする必要はないと考える保護者もいます。
中には、子どもが「友達が着るから、私だけ着ないのは嫌だ」と言われたり、ママ友から「どこの袴をレンタルする?」とすでに既成事実として話が進んでいたりと、特に着せたくもないのに袴を着せることになってしまった保護者もいます。
実際に保護者から、「子どもが袴を着たいというけど、私は別に着せたくはないので、学校から服装について規制をかけてもらえるといいな」という意見をいただいたことがあります。
卒業式は儀式的行事でありファッションショーではないから
卒業式は、儀式的行事として年間行事計画の中に定められています。あくまでも学校の大切な行事であり、決してファッションショーではありません。
私が危惧するのは、目立つためにどんどん服装が過激になるということです。袴を着ただけでは目立たない、では髪の毛もさらに派手にする、それも多くの子がやるからメイクでさらに目立とうとする…ということが、私が勤務していた学校でも実際に感じられました。
成人式で目立とうとする若者とダブって見えてしまいますが、あちらはあくまでも成人式ですので、まあ大人として自己責任という見方ができます。
対して、小学校の卒業式は完全に保護者の管理下です。目立つために、衣装やメイク等が過激になっていくのは親のエゴと言われても仕方がありません。
私が勤務した学校で、男子に袴、頭はリーゼント風という格好で卒業式に送り出した母親がいました。自分もド派手な格好をしていて、会場の中で最も目立つ親子になっていました。承認欲求はきっと満たされたでしょう…。
勘違いしている教員がいるのも問題
子どもと同じように、卒業生を受け持つ担任までもが袴を着るというのが、現在の問題の一つではないかと思っています。
女性の先生の中には、当日どんな袴を着るのかということで、子どもと盛り上がっている先生もいます。この先生は自分のクラスに袴を着たくても着れない子がいたら、どう思うのでしょうか。
最近は、男の先生も袴を着る先生が増えてきました。私の経験上、若い先生に多い印象を受けます。
そもそも、卒業式に担任が袴を着る必要があるのでしょうか。担任が目立つ必要はありません。袴を着なくても、保護者は誰が担任か知っています。それに、担任のための卒業式ではありません。教師が着ていたら、子どもや保護者に何も言えなくなってしまいます。そもそも、略礼服じゃダメ?
子どもの体調を考えて
これも教員をやってきて、実際に感じたことです。
袴の着付け等のために、早い子だと朝4時ごろには起きているようです。普段よりも早起き、なれない服装に気をつかう、お腹のあたりを締め付け、当日の緊張などの理由が重なって、卒業式に気分が悪くなってしまう子が時々います。
子どもの体調を考えると、袴の着用がきっかけで卒業式に気分が悪くなってしまうのは、せっかくの卒業式なのにもったいないなと感じてしまいます。
最近は、着付けも手軽になってきて、袴を着用することが身近になってきていると聞きます。それでも、地元の店で朝早くから着付けをする子も少なくありません。
体調以外にも、着付けに慣れていなくて、卒業式直前で帯などがほどけてくる事態になったことがあります。当日しか起こり得ない問題に時間をかけることになってしまいました。
学校としての対応の仕方
服装を華美にしたくないなら、文書配付と保護者への呼びかけ
服装の規定は設けないが、華美にならないようにしてほしいと呼びかけるなら、学校から文書を配付すればよいと思います。また、学級懇談会の場で、直接保護者にお願いすることも必要です。
袴を禁止せず、「必要以上に華美にならないように」とお願いすれば、大きな混乱はないと思います。袴を禁止すると、「なぜ袴はだめなんだ!ドレスはいいのか!」と言われてしまうかもしれません。
しかし、華美の基準は人によって違うので、卒業式当日にビックリ!なんてことはあるかもしれません。
最終日だから何でもアリでしょ?勢いで行っちゃえ!という保護者にも何人か出会ってきました…。
禁止するなら、PTAの協力を得て進める
袴を禁止するというのであれば、保護者の理解を得る必要があります。そのためには、学校から一方的に禁止とすると、大抵苦情が来ます。いや、間違いなく来るでしょう。
そのためには、PTAの協力を得ることがよいと思います。保護者に文書を配るときは、校長名とともにPTA会長の名前も記します。学校で行われるPTAの会議でも話題にしてもらいます。そうすることで、学校と保護者の総意ということで進めていけます。
ただ、袴のレンタルは早い人で一年前には予約しているので、年度当初に袴の禁止を伝えても保護者は困ります。早くても、次年度から禁止する方がよいと思います。
まとめ
いかがでしたか。小学校の卒業式に袴は必要ないという、私の意見を述べさせていただきました。
公立の学校に勤める教員は、公立学校には様々な家庭環境の子がいるということは、常に頭に置いておくべきだと思います。
確かに、袴を着て卒業式に臨み、素敵な笑顔で巣立っていく子どもたちを見ると、別に卒業式くらいという気持ちにもなります。しかし、着たくても着られないという子がいるのなら、私はやはりやめるべきだと思います。美しい袴を着ている子がいる一方で、家庭生活が苦しく、何とか他人から借りてブレザーを用意できたという女の子もいました。
もし、地域の文化振興の一環などで、つまり和装の文化に触れる取り組みとして、袴の貸し出しが全員に無償であれば、それはそれでよいことだと思います。
卒業式の袴については、賛否両論あると思います。しかし、学校の先生には、特に公立学校の先生には、今一度、目の前の子どもたち一人一人の環境を考えてほしいと思っています。
最後までご覧いただき、ありがとうございました。