漢字の字形の許容範囲は?どこまで細かく見ればいい?

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小学生の基礎的な学習と言えば、江戸時代の「読み・書き・そろばん」を軸とした「音読、漢字練習、計算練習」です。

これら3つを宿題に出している先生は多いのではないでしょうか。

今回は、漢字指導についての話です。この記事は、小学校の先生向けですが、保護者の方にも読んでいただけるとうれしいです。

目次

漢字の字形の基準は、実はゆるやか

多くの先生が、漢字の指導をするときに、とめ・はね・はらいをていねいに指導すると思います。

しかし、「常用漢字表」の漢字の字形の基準は、ゆるやかです。

ぴーちょこ

教員の視点だと、「これでいいの?」と思ってしまうほどです。

平成28年2月29日に出された文化審議会国語分科会の資料から引用します。

図1では文字の骨組みにまで及んでいるため,別の漢字として認められる。一方,図2では,長短,方向,接触の有無,はらうか,とめるか,はねるか等の- 8 -違いはあっても,骨組みは共通しているため,いずれも同じ漢字として認められる。

https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/kokugo/shoiinkai/iinkai_22/pdf/shiryo_2.pdf より一部引用
ぴーちょこ

つまり、図2の⑤は、最後をはねていないけど「正解!」ということです。

他にも、これで正しい漢字として認められるものを紹介します。同じく、平成28年2月29日に出された文化審議会国語分科会の資料に記載されていたものを抜粋しました。

さあ、先生方。子どもたちが上記の漢字をどう判定しますか?でも、これは漢字の字形として認められるということなのです。

どうして学校では厳しく漢字指導をするのか

字形の基準が実はゆるやかであることは、ここまででご理解いただけたと思います。

業者の国語テストを購入すると、教師用の答えに採点用として「漢字の許容一覧」がついていることがあります。これを見た先生方、これにしたがって採点しますか?

ぴーちょこ

教員の立場からすると、「こんなの〇にできるわけないでしょ!」とツッコミたくなる漢字がたくさん載っていますね。

では、なぜ学校では漢字指導が厳しくなるのか。それは、

学習指導要領の「学年別漢字配当表」に示された「教科書体」という字体を「標準」として教えることになっているから

です。だから、教師はこの教科書体を基準にして漢字指導をするので、教科書体に合わない字形を正解としないのです。

漢字指導における注意点

これは、自分が実際の教員経験から考える漢字指導の注意点です。当然、先生方によって考え方は違うと思うので、個人的な意見としてとらえていただければと思います。

基本は教科書体をていねいに指導する

漢字指導の基本は、教科書体をていねいに指導することだと思っています。大きく理由は2つあります。

①あれもこれも正解では、子どもたちが混乱するから

「ここははねるけど、とめてあってもOK」、「ここは、点の向きが逆でもOK」など、書き方の基準がバラバラだと、逆に子どもたちは混乱します。

指導するときは、全体に対して一つの形を示しておくべきです。

②保護者も厳しい漢字指導を受けてきた世代だから

保護者の多くは、とめ・はね・はらいを厳しく指導されてきた世代だと思います。そのため、常用漢字表のように、基準がゆるかやか指導では、「先生はていねいに漢字指導をしてくれない!」と思うかもしれません。

採点するときは、個人に合わせて柔軟に対応する

採点するときも、当然ながら教科書体を基準に採点をします。なぜなら、教科書体をていねいに教えているからです。ここで、採点が甘くなると、だんだん字が雑になっていきます。

話が少しそれますが、私は年度当初に必ず言うことがありました。それは、「漢字はていねいに書きなさい。上手な字ではありません。ていねいな字が先生は好きです」と。

教師が判断するのは、字が上手か下手かではなく、ていねいかていねいでないかを基準としていることを先に伝えます。

習字教室に通っているから字に自信がある子には緊張感を、字がヘタクソだと自信をなくしている子には先生が認めてくれるという期待感を与えます。

こうした指導をしていけば、採点するときに教科書体を基準にていねいに書くようになります。

しかし、中には筆圧が弱く、とめ・はね・はらいが甘くなる子、漢字を覚えられない子(LD)がいます。こうした子どもたちには、一人一人に合わせて柔軟に採点します。

常用漢字表のように、基本的な骨格があっていれば特別に正解にしてもいいでしょう。漢字が苦手な子が、少しでも意欲的に学習できるよう、やる気をなくさないよう、柔軟に対応することが大切だと思います。

行き過ぎたな厳しい指導はダメ

行き過ぎた厳しい指導はダメです。具体的には、「細かすぎること」です。

私の娘が1年生の時の担任は、とても厳しい漢字指導をする先生でした。口という漢字ですが、下の写真を見てください。

左が教科書体ですが、右のような漢字を書いて、×をもらってきました。いやあ、ちょっと厳しすぎるなあと思いました。

また、同じ職場にいた先生(こちらも1年生)は、漢字指導が厳しすぎると保護者から苦情が出たことがありました。下の写真をご覧ください。

ていねいな指導が悪いとは言いません。しかし、ここまで厳しくする必要があるでしょうか。漢字嫌いの子を作るだけになってしまいます。

保護者の言い分は、「先生の指導が厳しすぎるので、子どもが漢字を書いては消し、書いては消しと神経質になりすぎて、宿題が進まない。字を書くことに慣れていない1年生であることを配慮してほしい。」というものでした。

ぴーちょこ

こんな厳しすぎる指導は無意味でしょ。大人だってめげるよ、コレ。

フォントによる字形の違いを説明しておく

該当する漢字が出てきたときは、フォントによる字形の違いを説明しておくと良いでしょう。

例えば、「令」です。これは、教科書体と大きく形がちがいます。こういう漢字が出てきたときに、フォントと学習する漢字の書き方が違うことを説明しておくと、理解が深まると思います。

まとめ

今の世の中は、手書きで書くことが少なくなってきました。社会に出ると、すでに文章はコンピュータで作成するのが当たり前です。

極端に言うと、手書きの時代は子どもの時だけなのかもしれません。そのため、漢字の形を正確に覚えることはあまり必要ないのかもしれません。

しかし、漢字の学習は漢字を覚えることだけが目的ではありません。毎日ていねいに取り組ませることで、課題に対してていねいに向き合う態度を育てたいという教師の思いもあると思います。

そのため、漢字指導のポイントは、

①教科書体を基本に
②でも、個人に合わせて柔軟に採点

これをベースに考えればよいと思います。厳しすぎるのは問題ありですが、やはり教科書体をベースにていねいに漢字指導をすればよいと思います。

ただし、LDの子に対しては、特別な配慮をしましょう。

最後までご覧いただき、ありがとうございました。参考にしていただければ幸いです。

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この記事を書いた人

元教員。
公立の小中学校で20年間勤務した経験を生かし、今をがんばる先生方を応援するサイトを作っていきます。

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