通常学級の担任と特別支援学級の担任、両方経験された先生もいれば、特別支援学級の担任はやったことがないという先生もいるでしょう。
正規採用であれば、よほどのことがない限り、通常学級の担任、または小学校の専科教員、中学校の副担任からスタートすると思うので、特別支援学級を経験していないという先生はそれなりにいると思います。
私はどちらも経験しているのですが、現場では以下のような声が聞かれたものです。
結論から先に言います。
大変な部分の質が違うので、どちらが楽とか大変とか一概に決められない。
そこで、今回の記事は以下の人に向けてまとめていきます。
- 通常学級、特別支援学級の担任の仕事の違いについて知りたい先生
- 特別支援学級の担任を打診されていて、引き受けるか迷っている先生
- 特別支援学級に興味がある先生や学生
この記事は、結論を先に述べたように、どちらが楽とか大変とか決められません。大変な部分がそれぞれ違うので、以下のような構成でまとめていきます。
- 通常学級担任の大変な部分
- 通常学級の担任に向いている人
- 特別支援学級の大変な部分
- 特別支援学級の担任に向いている人
- なぜ「楽」とか「大変」とか言われるのか
- まとめ
自分の経験や現場の先生の声をもとに、まとめていきます。
通常学級担任の大変な部分
たくさんの子どもを一度に相手にする
まず、通常学級の担任の大変さといえば、一度にたくさんの子どもを見ることです。ただ、1クラスあたりの人数が少ないと大きく変わる部分でもあります。
40人学級と、10人学級では単純に4倍の違いがあるので、大変さは大きく違います。
しかし、ここでは特別支援学級との比較ですので、30人以上児童生徒が在籍する学級をイメージしてください。
一斉指導、集団を動かす力の必要性
通常学級では、一度に何十人もの子どもたちに指導する力が求められます。
連絡を伝えること、整列させること、授業を行うことなど、子どもたちの登校時から下校まで、ずっと必要とされる力です。
具体的にどんな力なのか、この記事では省きますが、この力がないと、子どもたちが担任の言うことを聞かないことから、学級の荒れにつながっていきます。
比較的落ち着いた子どもたちばかりのクラスもあれば、落ち着きのない子がいて指導が難しいクラスもあります。子どもたちに左右される部分もありますが、どんなクラスであろうと、指導力のある先生は上手に学級経営をします。
一斉指導が苦手で、学級経営がボロボロだった先生が、次年度に特別支援学級の担任になったパターンは結構ありました。
集団の中での一人一人の把握
通常学級の担任は、一人一人を把握する力が求められます。
得意な教科や苦手な教科、友達関係、学級での居場所など、アンテナを高くして子どもたちの実情を把握する必要があります。
後述する個人懇談で、保護者に話をするときに「普通の子ですよ」なんて言えますか?「普通の子って何?」と保護者に不信感をもたれてしまいますよね。
子どもたち一人一人を把握することは、とても大変なことであり、重要なことでもあります。子どもたちを理解することに努めなかった結果、いじめを見過ごしてしまうこともあります。
保護者との懇談で、全員の様子を具体的に言えないとダメだと私は思います。「元気にやってますよ」「問題ありませんよ」としか言えない先生を保護者は信頼すると思いますか?
集団の中での個別指導
子どもたちがたくさんいれば、当然さまざまな学力の子たちが集まります。
算数の一斉授業を行う場合、苦手な子には個別に教えつつ、得意な子には別の課題を用意するなど、児童の理解度を把握しながら授業を進めることが求められます。
全員に対して同じ指導しかしないような授業では、子どもたちから「授業がおもしろくない」「わからない」といった声が聞こえてくると思います。
通常学級の担任は、一斉授業の中で個別に対応する力が求められます。
集団の中での個別指導が上手な先生は、実にさりげなく声をかけたり指示を出したりしています。必ずそういう先生が職場にいますよ。
テストの採点、宿題のチェック
人数分だけテストの採点や宿題チェックの仕事があります。
40人いれば、40枚の答案用紙を採点することになります。これは、特別支援学級にはない大変な部分です。
日記や作文に一言コメントを入れるにしても、40人いれば「読む時間」「コメントを書く時間」で、どんなに早くても1時間はかかります。
教員の多忙を解消するには、一言コメントをなくしたいけど、教師からのコメントを楽しみにしている子もいるから、なかなかやめられないんですよね…。
子どもの数と同じだけ、保護者との関係ができる
クラス内に子どもが30人いれば、単純に30人の保護者と関係ができることになります。(両親や祖父母とも関われば、さらにその数は増えますね。)
子どもたちにもいろんな子がいるように、保護者も実にいろんな人がいます。そうした、いろんな保護者と付き合っていく大変さが、通常学級の担任にあります。
多数の保護者を把握する
子どもたち一人一人を把握することが大切であるように、保護者を把握することも大切なことです。
全ての保護者を詳細に把握する必要はありませんが、家庭環境が難しい家庭の保護者、対応が難しい保護者など、注意が必要な保護者の子とはしっかりと把握しておかなければなりません。
人数が多いので、基本的に「広く浅く」関わることになる保護者が大半ですが、保護者対応を上手にこなすためには、保護者への理解を深めておくことが大切です。
これまでの担任からの申し送り事項に目を通しておきましょう。
個人懇談での保護者への説明 ~子ども一人一人を客観的に理解しているか~
上記に書いたことと重複する内容になります。
子どもたち一人一人を理解することの大変さをすでに書きました。
合わせて大変なのが、それを保護者に伝えられるようにしておくことです。
Aさんの国語で得意なところはどこか、算数で苦手なところは何か、休み時間はだれと遊ぶことが多いのかなど、保護者に説明できるようにしておかなければなりません。
そのためには、日頃から子どもたちの頑張りを見つけた時に、メモをとっておく必要があります。そうしないと忘れてしまいます。
クラスの人数分、メモをとるのは大変ですが、これを繰り返すことで、子どもたちを観察する目が養われます。
通常学級の担任に向いている人
完全なる私の意見ですが、通常学級の担任に向いている人は、
・一斉指導が得意な人。
・集団に対しての授業を考える方が好きな人。
・集団で行う行事やイベントを考えるのが好きな人。(学習発表会、学年行事、学級レクなどのイベント)
・たくさんの子どもに囲まれている方が好きな人。
特別支援学級担任の大変な部分
障害によって一人一人への対応が全然違う
特別支援学級の担任で一番大変なのは、「障害によって、一人一人への対応が全然違う」ことです。
もちろん、通常学級でも一人一人は違うのですが、特別支援学級は障害の種類や程度によって、必要な支援(合理的配慮)が大きく変わります。
私の場合、自閉情緒障害学級を担任したのですが、自閉情緒学級という同じくくりの中でも、いろんな子がいました。簡単にどんな子たちだったか紹介します。
生徒A(中1男子)
・学習を嫌がることはない。漢字をたくさん書く練習でも、長時間取り組むことができる。
・気になることがあると、どんな場面でも質問せずにいられない。
・カッとなると相手に暴力をふるうことがある。
誰かとトラブルが起きると、手が出ることがありますが、それ以外は穏やかで学習面でも生活面でもほとんど支援が必要のない生徒でした。
生徒B(中2女子)
・慣れた相手としか話ができない。(声が出せない)
・当時、不登校気味で欠席が多かったが、その理由がわからない。(親にもわからない。本人が親にもうまく言えない。)
コミュニケーションをとることが困難な生徒でした。何十回と家庭訪問をしました。
児童C(小2男子)
・書くことを極端に嫌がり、問題数が多いとパニックを起こす。
・夢中になると時間になってもやめられない。無理矢理やめさせると怒って固まる。
・自分の性器を触る。
・飽きると、授業中でも寝転んだり大声を出したりする。
年下の子にはやさしいのですが、同学年相手だとよくトラブルになりました。
児童D(小1男子)
・自分で排泄ができない。おむつ着用。トイレトレーニングとして、一定間隔でトイレに連れていく。
・重度自閉症で、ほとんど他人と関わりをもとうとしない。
・知的障害もあり、単語または二語の組み合わせくらいしか話せない。
通常学級に交流で行くことができず、ずっと付きっきりでした。体も小さくよく転ぶので、目が離せませんでした。
一人一人に対して、対応の仕方が異なるので、その子に合わせた方法を考えなければなりません。
多くの書籍を読んでいろんな対応策を学びましたが、最終的にはその子に合わせて支援策のアレンジが必要なので大変でした。
生徒Aのように、通常はあまり支援が必要のない子もいれば、児童Dのように全く目が離せない子もいるので、在籍する子どもによって大変さは大きく変わります。
1クラスに子ども一人であればマンツーマンで対応できますが、2人以上いる場合は、それぞれに対応しなければならないので、大変さは一気に増します。
1クラスに複数の子どもがいる場合は、自治体雇用の支援員がつくことがあります。とても助かる存在ですが、支援員と指導方針をそろえることが大切なので、きちんと相談する必要があります。
とにかく障害に応じて、その子にとってよい支援策を考えるのは、想像以上に大変です。
私も毎日手探りの状態でした。うまくいかないことが多々あり、悩んだことも多かったです。
学級内で複数学年にまたがると、把握するのが大変
学級内に複数の児童生徒が在籍すると、学年が複数にまたがっている場合があります。
例えば、4人の子が4人とも違う学年だった場合、学級内に時間割が4通り存在することになります。例として、時間割を作ってみました。金曜日の1日だとします。
赤い字のところは、交流学級で学習する教科です。
時限 | 1年 | 2年 | 4年 | 6年 |
---|---|---|---|---|
1 | 国語 | 国語 | 体育 | 国語 |
2 | 音楽 | 算数 | 国語 | 外国語 |
3 | 生活 | 自立 | 理科 | 算数 |
4 | 自立 | 自立 | 自立 | 自立 |
給食 | 交流 | 交流 | 交流 | 交流 |
5 | 国語 | 生活 | 社会 | 家庭 |
6 | 家庭 |
時間によって、支援学級にいない子、いる子が違うのがわかりますね。
だれがどこでどんな学習をしているのか、特別支援学級の先生は把握しておかなければなりません。
「Aくんは次が音楽だから、あれとこれを用意して…。付き添うのは支援員の○○さん、Bくんは支援学級で図工。…」
というように、とても慌ただしいです。しっかり計画を立てておかないと、支援学級の子が困ります。
急な予定変更はパニックを起こす原因になるので、しっかりと計画し、事前に子どもたちに伝えなければなりません。
通常学級から忘れられることも…
「大変」とはちょっと違うのですが、特別支援学級にいると、通常学級から忘れられてしまうことがあります。
特別支援学級の担任をしたことがある先生なら、経験しているのではないかと思います。
具体的には以下のようなことです。
- 学級レクに呼んでもらえなかった。(急に実施が決まった時は、こうなることがある)
- 支援学級の子がいないのに、席替えをしていた。
- 学年全員に配付するプリントが配られていなかった。
- 通常学級の時間割変更を伝えてもらっていなかった。
急な時間割変更自体やめてほしいのに、それを聞いていないと本当にムカッときます。
保護者との関係が濃い
通常学級の担任が、多くの保護者と関わりを持つのに対して、特別支援学級の担任は、人数が少ないながらも保護者との関係は濃くなります。
保護者によっては、毎日のように顔を合わせ、話をすることになります。
そうでなくても、教師から保護者に連絡をする機会は、通常学級の担任より格段に多くなります。
子どもを通じて伝えるのが難しい場合が多いので、直接保護者に連絡する機会は多くなります。
保護者と気軽に雑談ができるような先生ならよいですが、保護者と話すのが苦手という人はツラいかもしれません。
特別支援学級の担任に向いている人
これも完全に私の個人的な意見ですが、
・短気でない人(重要!)
・一斉よりも特定の子どもを指導する方が好きな人
・保護者とコミュニケーションをとるのが苦にならない人
・発達障害に関心が高い人(これも重要!)
まず、短気でないことが求められると思います。
言うことを聞かない、時間を守れない、好きなことしかやらないという行動は、障害があるからです。それを理解していないと、「何で言うことを聞かないんだ!」と腹が立つだけです。
大切なのは、その子の特性を理解し、どうしたら少しでもできるようになるのかを考えることです。本人に求めるのではなく、教師が支援をしてできるようにするのが特別支援教育だと思います。
ですから、短気な人には務まらないと思います。
それと同時に、発達障害について関心をもち、具体的な支援の方法について学ぶ意欲のある先生は、特別支援学級の担任に向いていると思います。
なぜ「楽」とか「大変」とか言われるのか
通常学級の担任で失敗 → 特別支援学級の担任への流れ
私が働いてきた現場で実際にあったことを書きます。多分、他の学校でも同じようなことはあると思うので。
通常学級の担任として1年働いている間に、「授業がわかりにくい」「子どもたちをきちんと見てくれない」などの苦情が多かった先生がいます。学級内も荒れ気味でした。そういう先生は、次年度は特別支援学級の担任になりました。
それが次年度も別の先生で同じことが起きました。すると、職場では「多くの子どもたちを見ることができない先生だから、特別支援が級の担任になった」。つまり、
仕事ができないから、特別支援学級の担任になった
それが勘違いされて、「あの先生はダメだから、特別支援学級の担任にされたんだよ」と。
管理職からしても、多数の保護者から苦情が来るから、人数の少ない特別支援学級の担任にしよう。少人数なら見ることができるだろう、という考えがあるように思います。
しかし!ここまでの記事をご覧いただければお分かりの通り、
特別支援学級の担任の方が楽だとは言いきれません!
受け持つ子によっては、通常学級よりはるかに大変だと感じた年がありました。毎日、ものすごく疲れました。
交流学級で「お客様状態」の先生がいる現実
特別支援学級の子が交流として通常学級で授業を受けるとき、完全にお客様状態になる先生がいます。
どういうことかというと、特別支援学級の子だけ見ていて、あとは何もやらないという先生がいるということです。
もちろん、付きっきりでなければ対応できないという子の場合は話が別です。
しかし、中には張り付いていなくても、自分でやっていける子もいます。それなのに、その子のそばで何をするでもなく、ボーっとしているだけの先生がいます。
その姿を見ると、通常学級の担任は、「ただ連れてきただけじゃん」と思ってしまいます。特に、通常学級に個別指導が必要な子が複数いる場合は、余計に腹立たしく感じることがあります。
反対に、ものすごく頼りにできる特別支援学級の先生もいます。
私が通常学級の担任をしていた時、すごく仕事のできるベテランの先生が特別支援学級の担任でした。交流で子どもを連れてきたとき、次のように行動していました。
- 支援学級の子と自分のクラスの子を上手に関わらせてくれる。
- 支援学級の子を見ながら、通常学級の子にも支援をしてくれる。
- 通常学級の授業でできなかったところは、支援学級で取り組んでくれる。
ものすごく頼りにできる先生で、とても助けられました。同時に、特別支援学級の担任のすごさも感じました。
上記の先生ばかりであれば、「特別支援学級の担任は楽」なんて言われることはないのですが…。
まとめ
ここまでご覧いただき、ありがとうございました。
結局、どちらが楽だということはありません。私が言いたいのは、
通常学級、特別支援学級のどちらが楽とは言い切れないこと
です。
また、向き不向きというのがあるので、それによって大変さの感じ方は違うと思います。
一斉に指導する方が好きな人は、特別支援学級で特定の子とずっと過ごすのはツラいかもしれません。
逆に、集団を動かすのが苦手、大きな声で指示するのが苦手という人が、特別支援学級の子にとって接しやすい存在となり、うまく学級経営ができるかもしれません。
この記事が少しでもお役に立てれば幸いです。