教員のストレスのうち、多くの割合を占めるものの一つに保護者との関係が挙げられると思います。
周りの先生を見渡してみると、保護者と良好な関係を築ける先生がいる一方で、保護者からの苦情が多い先生がいるのも事実です。
うちの職場には、それほど苦情を受けている先生なんていなさそうだけど…と思われる先生がいるかもしれません。しかし、保護者の中には、校長や教頭に直接言う人がいます。その場合、校長と教頭の判断で、対象の教員に伝えられずもみ消されている場合があります。
または苦情があったことを伝えず、さりげなく遠回しに指導することもあります。
もちろん、教員を続けていれば何かしら苦情や細かい注意を保護者から受ける場合があります。また、教員に関係なく理不尽な苦情を言ってくる保護者もいます。
そうした、誰にでも当てはまることや教員にはどうしようもない保護者を相手にする場合ではなく、あくまでも教員間で見たときに、相対的に苦情が多く寄せられる教員についての話をしていきます。
今回は、私の教員生活の経験から、保護者からの苦情が多かった先生の特徴を紹介したいと思います。
私が教務主任をしていた時、当時の校長先生や教頭先生から苦情が多い先生の特徴と、苦情ができるだけ来ないようにするために、教務主任として何をするべきか教えていただきました。
ですから、苦情が多い先生の特徴だけでなく、苦情が少ない先生の特徴も同時に紹介していきたいと思います。
先に申し上げておきますが、苦情が多い先生は、これから紹介していく特徴をいくつも合わせ持っている場合が多いです。何か一つだけで苦情が多いという先生はあまりいないと感じています。
私の経験による主観で述べていきますが、一つの意見として参考にしていただければうれしいです。
感情的に怒る(指導に愛がない)
感情的になって子どもに怒る先生は、苦情が多いです。
感情的に怒る先生は、自分の心に余裕がありません。自分の感情のまま頭ごなしにしかるので、子どもにとっては「怒られた」「怖い」という印象が強く残ります。
そして、一方的に子どもに怒って終わりという形で終わることが多いです。
一方で、厳しい指導をしても、苦情を言われない先生がいます。なぜかというと、「子どもへの愛があるから」です。
具体的に言うと、指導するときに以下のことをしています。
①冷静に叱る
冷静に叱るということは、感情的になっていないということです。もっと具体的に言うと、指導するべきことをしっかり理解した上で、対応に当たっているということです。決して感情にまかせて怒鳴り散らしたりはしません。
子どもに指導する際に、厳しく言わなければならないこともあるでしょう。しかし、冷静に叱れる先生が厳しく言うときは演技をしています。つまり、自分の感情をコントロールできているのです。
②子どもの言い分を聞く
苦情が少ない先生は、必ず子どもの言い分も聞いています。子ども同士のけんかなら双方の言い分を、一人で問題行動を起こした場合はその理由を必ず聞きます。
子どもを指導した後に保護者から連絡が来るパターンで多いのは、「うちの子の言うことを聞いてもらえなかった」というものです。
きちんと子どもの言い分を聞いていれば、子ども自身も指導に納得しやすいですし、何か保護者から質問を受けた時も、「お子さんが言いたいことを聞いたうえで指導した」と説明ができます。
子どもの言い分の中には、許してはいけないものと、子どもの思いに理解を示してあげる必要があるものがあります。許していけないことはきちんと指導し、理解を示してあげる必要があることはきちんと子どもの思いを受け止めてあげた上で、いけなかった行為についてはしっかりと指導します。
③指導後にフォローをする
叱った後は、必ずフォローをすることが大切です。苦情が少ない先生は、自然と叱った子どもへのフォローをしています。
叱ったこととは違う話題で話しかける、ちょっとしたことで褒める、どんなことでもよいですが、叱りっぱなしで終わらないようにします。「もう叱ったことは終わりだよ」という気持ちを子どもに伝えます。
ただし、小学校高学年や中学生の思春期真っただ中の子に対しては、しばらくそっとしておいた方がよい場合もあります。
子どもへの対応がよくない
子どもへの対応が悪い先生は、当然保護者から良い目で見られません。
先ほど挙げた感情的に怒ることだけでなく、
- 子どもの相談を真剣に聞かない
- 宿題をていねいにチェックしない
- 子どもを褒めない
- 子どもとの約束を守らない
など、子どもたちが「この先生はいやだなあ」と感じるようなことをしていれば、それらの行動は子どもを通じて保護者に伝わります。
最初は子どもの話を聞き流していた保護者も、わが子が繰り返し担任の不満を言えば、不信感をもつようになります。
私の子もあまりに不満を言うのでよくよく聞いてみると…担任の先生のやらかしている実態を知りました。
苦情が少ない先生は、子どもへの対応がていねいです。例えば、以下のことができているか振り返ってみてください。できているあなたは、バッチリです。
- 子どもが相談に来たときは、今やっていることをやめて、子どもと目を合わせて話を聞いている。
- 子どもが物を壊した時、指導する前に「けがはなかった?」と言っている。
- 子どもが何かしてくれたら、「ありがとう」と言っている。
- 子どもと進んで楽しい会話をしようとしている。
- ちょっとしたことでも大げさに褒めることができる。
大切なことは、「子どもの気持ちに寄り添うこと」です。
ひいきをする
露骨にひいきをする先生も、苦情が多い先生だと思います。
ひいきをするということは、良い思いをする子どもがいる一方で、嫌な思いをする子どももいるということです。
そもそも、ひいきをする先生は公平性に欠けるし、自分にとって都合のよい子どもを選別していることになるので、教師として失格だと思います。
では、具体的にどんなひいきがあるのでしょうか。
教師の判断でいつも決まった子をリーダーにする。
リーダー性のある子がリーダーをやれば、教師はいろいろと楽です。子どもたちの同意があればよいですが、教師がいつも同じ子ばかりリーダーに指名するのはよくないと思います。
「○○さんはしっかり者だから、今回もリーダーをやってね」と、あらゆる場面で露骨にリーダーにしていては、「○○さんはリーダー向き、他の子はリーダーに向いていない」と子どもたちに印象付けることにもなりかねません。
もちろん、リーダーに向いている子はこういう子だ!というモデルとして特定の子を示すのは必要ですけどね。
いつも宿題を忘れる子がやってきたときに、ものすごく褒める
気持ちはわからないでもないですが、他の子から見れば、「どうしてあの子は当たり前のことをやっただけであんなに褒められるのか」と思います。
宿題をやってこない子がやってきたことを褒めるのはとても大切ですが、みんなの前で褒めるのは避けた方がよいです。
苦情が少ない先生は、ひいきをしない先生。つまり、みんなを公平に扱ってくれる先生です。
いけないことをしたら誰にでも叱る、良いことをしたら誰でも褒めてもらえる、といったように、「人ではなく、行動で評価する」先生です。
人ではなく、行動で評価する先生だと子どもたちが理解させれば、「あの子はいつも褒められる」ではなく、「あの行動をしたら褒められる」と意識が変わっていきます。つまり、努力しようと思えるようになります。
保護者はわが子の問題行動が多いと知っていても、よいところは認めてあげてほしいと思っているものです。ひいきをせず、きちんと見てくれる先生だと安心します。
失言が多い
昔はそれほどでもなかったと思いますが、最近はちょっとした失言でも保護者から文句を言われることが多くなってきたように思います。(それを取り上げるマスコミの影響もあるかと思いますが。)
失言が多い先生は、やはり保護者から苦情を言われる可能性が高くなります。
失言の種類として、
- 暴力的な発言
- 性的な発言
- 差別的な発言
というものが挙げられます。
暴力的な発言とは、最初の方でも述べました感情的に怒るときに出やすい発言です。
「お前はバカか」「てめえら、ふざけるんじゃねえ」「学校に来る意味ある?」のような、言葉による暴力です。
指導でカッとなりやすい人は注意しなければなりません。
性的な発言は、冗談で言ってしまい、あとから失言だったと気付く場合が多いような気がします。
男性教員が女子に「○○さんは、最近胸が大きくなってきたね」と言った場合、だれもが性的な発言だとすぐに思うでしょう。
しかし、気をつけないと以下のような場合でも性的な発言として、苦情を言われる場合があります。例としていくつか挙げます。
・太っている子に対して、「給食そんなに食べるということは、横綱を目指しているのかな」と言う。
・ショートカットにした女子に対して、「男の子っぽくなったね」と言う。
・生理が来た子に対して、「大人の仲間入りだね」と言う。
注意したい点は、女性教員が言っても問題にならないことが、男性教員が言うとセクハラ発言になってしまうことです。
冗談だからでは通用しないこともあります。男性の先生はうっかり発言に気を付ける必要があります。
差別的な発言とは、人格を否定するような発言です。子どもに対してだけでなく、子どもたち以外の人物を例に挙げ、差別的に評価することも含みます。では、例を挙げます。
・「お前は何をやってもダメだな」
・「もう1回、1年生からやり直した方がいいんじゃないか」
・「勉強をやらない人は、ダメな大人になるぞ」(断定的な言い方)
・「○○という職業は、普通の人がやる仕事ではない」(職業差別)
などです。
差別的な発言だと子どもが気付かず、家に帰ってから「今日、学校で先生がこんなこと言ってたけど、どういうこと?」と保護者に言ったことから苦情の電話がかかってきた先生がいました。
人間、だれしもうっかり言ってしまうことはありますが、教師という職業に就いていることを改めて意識し、聴く相手が不快になるような失言をしないよう、肝に銘じておくことが大切です。
何だか窮屈な世の中になったなあと感じる人がいると思います。しかし、LGBTQのように、世界的に人権への意識が高まっている世の中では、教師も失言に気を付けて行動できるようにしなければなりません。
保護者とコミュニケーションをとるのが苦手
保護者とのコミュニケーションをとるのが苦手だからといって、それが直接、保護者からの苦情につながるわけではありません。
ただ、保護者とコミュニケーションをとるのが苦手な先生は、必要なことを保護者にきちんと伝えられない、または教師が意図したことをきちんと理解させられないといったことから教師の思いがきちんと伝わらず、それが誤解につながって苦情を言われることがあります。
保護者からの苦情が少ない先生は、保護者とコミュニケーションをとるのが上手です。
ベテランの先生を見ていると、保護者と楽しそうに会話をしている姿を見たことがありませんか。
教員が話し上手だと、保護者も教師の人柄のよい先生だと感じて安心します。保護者も担任に気を許すようになります。
保護者との関係を築ければ、何かあった場合でも、いきなり怒って苦情を言ってくることは少なくなります。
上手に付き合っていれば、クレーマーと言われる保護者も態度を軟化させせます。ダメだと180度態度を変えますけどね…。
極端な言い方をすれば、授業が下手でも仕事のミスが多くても、保護者との人間関係作りが上手な先生は、それだけで苦情を言われることが少なくなります。
学級経営とか授業があまり得意ではないのに、なぜか保護者の信頼を得ている先生が周りにいませんか?
保護者と話すことが苦手、または煩わしいと感じる人もいるかと思いますが、先のことを考えれば、積極的に保護者と話す機会を作りたいものです。
仕事のミスが多い
仕事のミスが多ければ、当然苦情を言われることも多くなります。当たり前ですよね。ミスの多い先生にわが子を預けたいと思う保護者はいません。
例えば、毎月発行する学年通信の行事予定が間違いだらけだったら、保護者は困ります。
宿題でプリントを出すのに、プリントを配り忘れることが多ければ、信用を失います。
私の職場にいた先生は、こんなことをやらかしてしまいました。
人間、誰でも仕事上のミスはするものですが、ミスをした上に誠意ある対応ができなければ終わりです。
堂々としていない
堂々としておらず、頼りない先生も苦情を言われやすい傾向にあります。
オドオドしている先生は、きっちりしている保護者から見れば一言言いたくなってしまいます。
うじうじしている人に、「ハッキリしろ!」と怒りたくなること、ありませんか?それと同じです。
「うちの子がいじめられているかもしれないんです」と相談に来た保護者を前にして、焦る様子を見せてしまえば、保護者は不安になります。
自分は堂々とするのが苦手なんですという先生は、堂々と見せること、つまり演技でも堂々としているところを見せて、保護者に不安を与えないことが大切です。
まとめ
保護者は、子どもから聞いた話で学校の様子を知ります。ですから、教師に対する評価は、子どもから伝えられる情報がよりどころになる、ということです。
子どもが学校のことをうれしそうに話すことが多ければ、「いい先生なんだな」と感じます。逆に、教師のことを悪く言う、または教師のことを直接悪く言わなくても、学校が楽しくないようなことを言うようであれば、「この先生、大丈夫かな」と不信感をもつようになります。
子どもに媚びる必要はもちろんありませんが、子どもの後ろには親の影があることを頭の片隅に置いておきたいものです。
保護者同士がSNSでつながっており、教師の評判が簡単に広まってしまう世の中です。前向きにとらえれば、よい噂も広まるということです。
真面目に仕事をして、誠実に子どもや保護者に対応していれば、保護者に「良い先生」と認めてもらえます。それがいろんな保護者に広がれば、きっと働きやすい学校になります。
「○○先生はとてもいい先生だと聞いています」と言われる先生が、同じ職場にいるはずです。そんな教師になりたいですよね。